朝日新聞夕刊2017/6/21 あるきだす言葉たち 英雄 小島 一記(こじま かずき)

ふるさとに古戦場あり十代の信長が攻めし松葉城跡

 「ふるさと」「古戦場」「松葉城跡」の語句を見ると、故郷を懐かしむ平凡な感じしか思い浮かばない。しかし、この作品はなぜか現代のものになっている。
 初句、第二句は事実を示し、そこに作者の感情は出てきていない。第三句の「十代の信長が」が一首全体を支配していると思う。若くして破格の統率力を示した歴史上の人物への思いが凝縮されている。
 この句によって、作者の信長への思いが伝わってくる。だからこそ、ふるさとの松葉城跡に感慨が湧くのであろう。
 さらに、作者の信長像にも特徴があると受け取れる。歴史的に検証された信長像ではあるまい。また、今までの歴史小説に描かれてきた信長でもないであろう。それは、次の作品に表れている。

英雄と縁あるような時めきは少年の日の地元の史跡

 
時代性を超越した能力と実行力を有する「英雄」に対する作者の強い憧れを感じる。
 「地元の史跡」は、信長についての史跡の中では重要視されないものであろう。信長の城でも、信長が長く留まった場所でもない。だが、ほんの少しでも信長に縁があれば、作者にとっては大切なものに感じられたことが伝わってくる。
 歴史的な事実は変わらないが、歴史上の人物をどうとらえるかは、時代によって変化する。
 作者は、戦国時代の傑出した武将として信長をとらえているだけではないと思う。当時の価値観を覆し、戦術や政治だけでなく文化面においても時代を超越した感覚をもった「英雄」として信長をとらえていると感じる。