山上憶良の 銀も 金も玉も 何せむに 優れる宝 子にしかめやも は、有名な短歌だ。
 だが、作品からイメージできる情景はほとんどない。また、作者の個人の心情というよりは、非常に広い範囲の人々がもつ心情が表現されている。
 また、この反歌から、当時既に金銀財宝を至上の物とする価値観があったことを知ることができる。子どもへの愛情よりも、蓄財を優先するような風潮をたしなめる役割をもたされていたのではないか、とさえ思える。
 そのように考えても、802と803の長歌反歌は名作だと思う。
 うまい物を食べたときに、これを子どもにも食べさせたいと、あらゆる時代でどれほどの親が思ったことか。
 離れている子のことが心配になり、あらゆる時代のどれほどの親は眠られぬ夜を過ごしたことか。
 たとえ親でなくてもどれほどの人が、幼い子の愛らしさに救われる思いをしたことか。

 時代を超えて、多くの人々が共感できる心情を五音七音の調べにのせて表現しているのが、この長歌と反歌だと思う。それは、現代にも受け継がれている。