巻五 800

父母を 見れば尊し 妻子見れば めぐし愛し
ちちははを みればたっとし めこみれば めぐしうつくし

世の中は かくぞことわり もち鳥の かからはしもよ 
よのなかは かくぞことわり もちどりの かからわしもよ
 
行くへ知らねば うけ沓を 脱ぎつるごとく 行くちふ人は
いくえしらねば うけぐつを ぬぎつるごとく ゆくちょうひとは

石木より 生り出し人か 汝が名告らさね 天へ行かば
いわきより なりでしひとか ながなのらさね あめへいかば

汝がまにまに 土ならば 大君います この照らす
ながまにまに つちならば おおきみいます このてらす

日月の下は 天雲の 向伏す極み たにぐぐの
ひつきのしたは あまくもの むこふすきわみ たにぐぐの

さ渡る極み 聞こし食す 国のまほらぞ かにかくに
さわたるきわみ きこしおす くにのまほらぞ かにかくに

欲しきまにまに 然にはあらじか
ほしきまにまに しかにはあらじか


<意訳> ※序の内容を含めて
聖人になるためと言って、世捨て人のような生活を送っている人へ。
自分だけで生きているような生活を続けていてはだめだ。

父母を大切にしなさい。
父と母は、尊敬すべき存在です。
妻子を大切にしなさい。
妻と子はだれよりも愛すべき存在です。
人の世は、それが当たり前のことなのですよ。

親の面倒もみないで、家族も捨てて暮らすなどとんでもないことだ。
だいたい自分はだれから生まれたというのか。
岩や木から生まれ出たのではないのだ。
親も捨て、妻子を捨てて、かって気ままな暮らしをしているお前、名前を名乗りなさい。
もしも、お前が天上へ行くことができたならそれでもよい。
だが、お前は地上にいるのだ。
この地上にいる限りは、どこに行こうと天子様がお治めになっている地にいるのだ。
どんな山上に行こうが、どんな地の果てに行こうが、そこはやはり天子様のお治めになっている国の内だ。
ここまで言って聞かせれば、今のような暮らしを続けるのはよくないことがわかるのではないか。