巻五 798

妹が見し 楝の花は 散りぬべし 我が泣く涙 いまだ干なくに
いもがみし おうちのはなは ちりぬべし わがなくなみだ いまだひなくに

<口語訳>
妻が見た楝の花はもう散るであろう。
亡くなった妻を思い出して泣く私の涙は、まだまだ乾くことはないのに。

<意訳>
元気だった妻が見ていた楝の花がもう散る時期になった。
妻が亡くなって、日々が過ぎ去っていく。
だが、私は妻の死を受け入れることが、まだまだできそうにない。


 現代ならば、亡くなった妻のことはどんなに時間が経っても忘れることはないと表現することが多いのであろう。
 この短歌では、時間がもっともっと経てば、妻を失った悲しみも、薄れていくであろうと表現しているように感じる。  
 死者への思いはどちらも真実であろう。この短歌から、亡くなった人のことを忘れはしないが、亡くした悲しみは時間とともに薄らいでいくことを感じる。