太宰帥大伴卿の、凶問に報へし歌一首
禍故重畳し、凶問塁集す。永く崩心の悲しびを懐き、独り断腸の涙を流す。但両君の大助に依りて、傾命わづかに継ぐのみ。筆は言を尽くさず。古今に嘆く所なり。

 大伴の旅人が知人の死を知らせる手紙に答えた歌一首
不幸が続き、親しい人が亡くなったという手紙が続いて届きます。いつまでもその深い悲しみから抜け出せず、独りやりきれない涙を流しています。あなたたちお二人が励まし慰めてくださるので、私は悲しみに耐えてようやく生きていけます。手紙では言い尽くせませんが、どうか私の気持ちを汲んでお読み下さい。


巻五 793 
世の中は空しきものと知るときしいよよますます悲しかりけり

<口語訳>
世の中のできごとすべてが空しいものであると思い知らされた。
もともと世の中はそういうものであるとわかってみても、つらいことに遭うと悲しみはいよいよ増してくる。

<意訳>
人の世の喜びも悲しみも空であり、もう心を動かすこともない。
その境地に至ったはずだが、親しい人の死の知らせを受けると激しい悲しみに襲われる。
人の生死もすべて空であり悲しむに値しないとわかっていても、死を悲しむ気持ちは強まるばかりだ。

 解説や注釈を読んでも「空しきもの」がわからない。仏教の思想によるものであるのだろうが、そうだとすると、渡来の体系的な思想を知れば知るほど、世の中の悲しいことは悲しいと感じるという意味合いになるのか。
 海外からもたらされた思想への作者旅人の理解は、相当に深いものだと思う。それだけに、ただありがたがるのではなく、学んだ思想を自らのものにしていると感じる。