石川啄木『一握の砂』「我を愛する歌」 より

こみ合へる電車の隅に
ちぢこまる
ゆふべゆうべの我のいとしさ
 

<私の想像を加えた歌の意味>
夕方の帰宅時の電車は、いつも混み合う。
今日一日の仕事を終えて、その電車に乗り込む。
電車の中は、私と同じような疲れた顔の勤め人でいっぱいだ。
疲れて無言の人々を乗せて、電車は夕方の街を走る。
昨日の夕方も、今日も、そして明日も、同じように満員の電車に身を縮めて揺られているのだ。
そんな自分をかわいそうに思う。

<歌の感想>
 勤め人の実際を鋭く表現していると感じる。ここには、仕事を終えた満足感や家に戻る安堵感はなく、都市部の労働者の悲哀がある。
 この作品は、歌集の小題「我を愛する歌」に一致するものの一つだと思う。その意味でも、重要な作だと感じた。

※以前の記事を改めた。(2016/11/20)