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衾道を 引手の山に 妹を置きて 山道を行けば 生けりともなし
ふすまじを ひきでのやまに いもをおきて やまぢをいけば いけりともなし


 前回の私の意訳がすっきりしないので、もう一度考えてみた。

口語訳・大意の比較

羽交の山に、いとしい人を残して置いて、山路を帰って来ると、生きている元気もない。口訳萬葉集 折口信夫

引出の山に妹の屍を置いて山路を帰ると、生きた心地もない。日本古典文学大系 萬葉集 岩波書店

(衾道を) 引出の山に 妻を置いて その山路を思うと 正気もない。日本古典文学全集 萬葉集 小学館

(衾道を)引出の山に、妻を置いて来て山路を帰って行くと、自分は生きている感じがしない。新日本古典文学大系  萬葉集 岩波書店

再考した私の意訳

妻のなきがらを引出の山に葬って来た。
もう妻のなきがらさえも見ることができない。
家へと戻る山道を歩くわが身はこの世にあるが、生きている感覚がない。

 前回に比べて、今回の訳がよくなりはしなかった。前回の「もう生きる気力もない」は、どうも違う気がしたので、直してみた。