その名さへ忘られし頃
飄然とふるさとに来て
咳をせし男


<短歌から思い浮かぶこと>
 「咳をせし男」は、ふるさとを嫌っていた。自分から「ふるさと」を捨てて、何十年という月日をふるさとへ戻ることはなかった。
 そして、突然にこの男は、姿を見せた。もちろん、喜び勇んで戻ってきた様子はない。また、渋々何かの用のために戻って来たのでもなさそうだ。
 ただ、何事もなかったように、まるで昨日まで、ここにいたかのようにうれしくも悲しくもない表情で現れた。
 しかし、作者は敏感に感じ取った。この男が病か、何かで、弱ってしまい、がまんしきれなくなって懐かしいふるさとへ帰ってきたであろうことを。