石川啄木『一握の砂』「煙」 より

ある年の盆の祭りに
衣(きぬ)貸さむ踊れと言ひし
女を思ふ


<私が考えた歌の意味>
ある年のお盆の祭りのことであった。
盆踊りに着る浴衣を貸すので、あなたも一緒に踊ればよいのにと誘ってくれた女がいた。
あの誘ってくれた女のことを思い出す。

<私の想像を加えた歌の意味>
ある年、盆のころに故郷に戻った。
故郷では、盆踊りが盛んだが、私はもう村の人たちと一緒に踊る気などなかった。
その私に、あなたも一緒に踊るとよいのに、と誘ってくれた女がいた。
知らない仲ではなかったが、特別に親しかった人でもなかった。
浴衣もないし、と誘いを断ると、その人は、それじゃあ浴衣を貸してあげる、とまで言ってくれた。
結局は、断ったのだが、あのときのその女の残念そうな様子を思い出すことがある。
あの人と一緒に踊ればよかったという思いとともに。

<歌の感想>
 啄木にとって、懐かしいのは、故郷の風物だけではない。友だちであり、自分が教えてもらった教師であり、自分が教えた教え子であり、恋心を抱いた女であり、故郷に住む人みんなのことも懐かしいのだ。
 そして、故郷の村の人々と、都会で知り合った人々との間には越えることのできない壁があるように感じる。