石川啄木『一握の砂』「煙」 より

かの村の登記所に来て
肺病(や)みて
間もなく死にし男もありき

<私が考えた歌の意味>
あの村の登記所に久しぶりに新しい人が赴任してきた。
赴任してきたが、村に来て勤め始めて間もなく、肺病で亡くなってしまった。
そういう人のことを思い出す。

<私の想像を加えた歌の意味>
故郷の村の近くの村に登記所がある。
その登記所に赴任してきて、間もなく肺病を患って亡くなってしまった男がいた。
故郷の村々では、そのことが話題となり、しばらくの間はその話で持ち切りだった。
故郷をなつかしく思う時にそんなことも思い出す。

<歌の感想>
 故郷のエピソードを短歌にしているのであるが、興味深い内容だ。当時の登記所で働く人がどのような位置づけであったのか、詳しくは分からない。しかし、地元で家業を継ぐ人とは異質な職業であったことは推測できる。
 「村医」にしても「登記所職員」にしても、中央と繋がりをもち、村の域を超えて行動できる職種の人だったと思う。そして、そういう人は、尊敬もされるが、地元に完全に溶け込むのは難しいことだったと思う。そういう村の人々の意識が、この短歌からも伝わってくる。