石川啄木『一握の砂』「煙」 より

わかれおれば妹いとしも
赤き緒の
下駄など欲しとわめく子なりし

<私が考えた歌の意味>
別れていると、妹のことが恋しくなるよ。
どんな妹だったかというと、うまくいえないのだが‥‥。
赤いはなおの下駄が欲しい、とわめく子だったよ、妹は。

<歌の感想>
 故郷には、家族がいる。家族の中には妹もいる。故郷の家族から離れていると、妹のことをときに恋しく思う。妹とは特別に仲がよかったかというと、そうでもない。妹のことで思い出があるかといえば、それも特別なことはない。ただ妹が幼い頃にわめいて物を欲しがっていた様子くらいしか思い出せない。でも、そのどこにでもあるような暮らしの思い出が、今は貴重なものに思える。そんな作者の思いが伝わってくる。
 兄妹との関係に理屈はない。成長も発展もない。互いに年齢を重ねても、妹も兄も幼い頃に戻ってしまう。家族とは、兄妹とは、そういうものなのだ。
 啄木は、家族と離れ、妹とも長く会っていないのであろう。変化も成長もない家族の中に、啄木が埋没することはない。家族の中に埋没することはないが、家族の中で暮らす喜びを、否定することもない。むしろその失われつつある家族のつながりを、啄木は失いたくないと思っているように感じる。