万葉集 巻二 234 或る本の歌に言う(233~234)

三笠山 野辺行く道 こきだくも 荒れにけるかも 久にあらなくに
みかさやま のべゆくみち こきだくも あれにけるかも ひさにあらなくに

<私の想像を加えた歌の意味>
亡き親王様の御所へと通じていた三笠山の野原の道を歩いています。
その道は、今は草が生い茂り荒れてしまっています。
親王様のいらっしゃった頃は、手入れもされ、人も多く通るきれいな道でした。
親王様が亡くなられて、まだそれほどの時も経ていないのに。
親王様ゆかりの人々も景色もすっかり寂しくなってしまいました。

<歌の感想>
 231と233、232と234をそれぞれ比較すると、私は、「或る本の歌」233、234の方をよいと感じる。これは、今までの諸家の評釈では意見の分かれるところのようだ。
 もしも、万葉集編纂の際に、一部が異なる歌が伝わっていて、そのどちらも甲乙つけがたく、両者を残したとしたらおもしろいことだと想像した。いずれにしても、ほんの一語変わっただけで、作全体の味わいが変わるのがよく分かる。その意味で、「或る本の歌」を万葉集に載せたことは、編者の卓見だと思う。