石川啄木『一握の砂』「煙」 より

そのかみの愛読の書よ
大方は
今は流行(はや)らずなりにけるかな

<私が考えた歌の意味>
過ぎ去ったあの頃に愛読した何冊もの本。
あの頃は、流行し、もてはやされた書物だった。
それらの本の大半は、今はもう流行遅れで、読み継がれることはなくなってしまった。

歌の感想
 この短歌のように、淡々とした詠みぶりのものが好きだ。
 歌意を散文にすると、書物の流行りすたりを表現していると受け取れる。だが、短歌からは、作者が学生時代に流行し、作者も夢中になった思想や芸術の大半が、今は価値のないものになったという思いが伝わる。
 書物の大半が、時代が変わると見向きもされなくなるのはいつの時代にもある。また、青春の頃に夢中になったものが変化するのは多くの人に共通する。そのような変化に気づいた時の感覚が、この短歌には表現されている。