万葉集 巻二 170 日並皇子尊の殯宮の時に、柿本朝臣人麻呂が作った歌一首と短歌 或る本の歌一首(167~170から) 巻二 167 168 169 170

島の宮 勾の池の 放ち鳥 人目に恋ひて 池に潜かず

しまのみや まがりのいけの はなちどり ひとめにこいて いけにかずかず


<私の想像を加えた歌の意味>
飼われている鳥に、亡き主人を恋う気持ちがあるのか。
島の宮の勾の池の鳥は、人を恋しがって池に潜らなくなった。

 この短歌を読んだ時に、よくわからないと感じた。水鳥が池に潜らなくなることと皇子の死とが結びつかなかった。しかし、何回か読むうちにこの作を好きになってきた。
 亡くなった日並皇子を思い出すのは、皇子その人の言動だけではない。皇子が住んだ宮殿であり、皇子が散策した庭園であり、皇子が好きだった景色や鳥など、全てが亡き人を思い出させるのであろう。
 人の死は、その人だけでなく、その人がいた風景や空気をも消滅させるということであろう。
 人麻呂は、悲しみと寂しさを、心情を表す語句を一切使わずに表現していると感じる。