石川啄木『一握の砂』「我を愛する歌」 より

何事も思ふことなく
いそがしく
暮せし一日(ひとひ)を忘れじと思ふ

<私の想像を加えた歌の意味>
過去を思い出したり、他人が自分を見る眼を気にしたりすることがない一日だった。
それほどすべきことを次々とやり、忙しかった。
思い悩むことのない一日が私にもあった。
そのような日は続きはしないが、私にもそういう日があったことを忘れないでいようと思う。

<歌の感想>
 似た境地を描いている作は他にもある。「思ふこと」のない日は、啄木にはほとんどないであろう。そして、「いそがしく」暮らすだけの生活をしたいとも思っていないであろう。
 「いそがしく」暮らすことが、健全で安定していることを、作者は知っている。しかし、自分はそのような暮らしを続けられないということも明白なのだと感じる。