石川啄木『一握の砂』「我を愛する歌」 より

人みなが家を持つてふかなしみよ
墓に入(い)るごとく
かへりて眠る

<私の想像を加えた歌の意味>
この社会では、人はみな家を持ち家を守って暮らすことになっている。
皆が家を持っていることは悲しい。
毎日、墓に入るかのごとくに、自分の家に戻っていく。
毎日、家に帰り、昨日と同じく明日の仕事に備えて眠る。
私にとって、それは、毎日、墓に入るのと同じだ。

<歌の感想>
 毎日同じ時刻に起きて、同じ仕事をして、同じ家に戻る。社会の仕組みが、どんどんとそうなっていく。それを、啄木は悲しんでいると感じる。
 そういう機械的な日常から、逃避する作者や怒る作者が描かれている短歌もあったが、ここでは怒りも逃避も感じられない。疲労感だけが、ずっしりと重い。