朝日新聞夕刊2017/5/31 あるきだす言葉たち 半袖の人長袖の人  小林 真代(こばやし まさよ)

震災復興還元セールとは言へど賑はふでもなし町の電器屋

 定型を崩したかに見えると、旧仮名遣いや文語を用いて、短歌の定型リズムを取り戻す。
 客観的な描写に終始していそうで、作者の主観がしっかりと込められている。

除染士のその後を言ひつつくさめしてひきつるやうに誰か笑ひぬ

 
東日本大震災を伝える文章や詩を読んだ。そのそれぞれに、考えさせられるものがある。
 震災後のことと、復興の取り組みを伝える文章や詩を読んだ。理由はよく分からないが、震災後のことは、なかなか伝わってこないように思う。
 この二首は、私のそういう思いにこたえてくれている。セールやイベントは大切であろう。肝心なのは、セールやイベントの後である。そして、元の地域に戻って必要なのは、新しい町づくりや新しい働き場所と同時に新しくない普通の電器屋が以前のようにある町なのだと思う。

 除染の作業に携わる人たちが、その地域に住んでいる、あるいは戻ろうとしている人たちにどんな受け取り方をされているかの一端を感じることができる。
 地震と津波の被害と、原発による被害の違いをはっきりと弁別したい。この短歌は、除染が必要となった被害の原因を突き付けてくる。
 また、自然災害と人為災害の相乗被害を乗り越えるには、長い時間をかける取り組みとそれに伴う生活がいるのだと思わせられる。