朝日新聞夕刊2017/5/31 あるきだす言葉たち 半袖の人長袖の人  小林 真代(こばやし まさよ)         

芍薬(しゃくやく)は大きく咲いて重く垂れどうすることもできぬ花時

 
短歌の創り方などというハウツウの立場からは、「大きく咲いて重く垂れ」などは、表現が重なっていてもったいないとでもいわれそうだ。
 あの立派で強い色の芍薬の満開の様は、こうとでも表現しなければ伝わってこない。花はどんな花でも咲き誇っている様子は、どこかけだるくこっけいなところがある。写真や絵画でも、その枯れていくことを予感させるような満開の花の表現にはなかなか出あわない。
 どうして、こんなに普通の語句「どうすることもできぬ」で、非の打ちどころなく咲いている芍薬の花の一瞬を表現できるのだろう。不思議だ。うまいとか独特の感性とか、そういうものではなく、作者のユーモアを感じ、共感してしまう。