朝日新聞夕刊2017/5/31 あるきだす言葉たち 半袖の人長袖の人  小林 真代(こばやし まさよ)         

そら豆のさやを剥(む)きつつ居間のテレビつければどつと夏場所である

 
なんとも滑らかな調べだ。短歌らしい言い回しがない。「どつと」と「夏場所である」がすてきだ。テーマは、季節の到来だと思う。短歌の永遠の題材だ。そして、今の季節感を描くことに成功している。

お湯の沸く音をしづかに待つ耳が勝負あったの声に驚く

 
やかんでお湯を沸かすときは、ピーやかんを使っていた。分かりやすいし、離れた場所にいても気づく。でも、けっこううるさいし、注ぐときは注ぎ口の笛を開けなければならない。毎日使っていると、沸騰までの時間と音の変化が分かるようになった。沸騰の間際が音が大きい。沸騰が始まると、音は変わり、小さくなる。
 水が沸騰するまでの音の変化、混じり合うキッチンの音とテレビの音、暮らしの音が伝わってくる。