石川啄木『一握の砂』「我を愛する歌」 より

ある日のこと
室(へや)の障子をはりかへぬ
その日はそれにて心なごみき

<私が考えた歌の意味>
ある日のことだった。
部屋の障子を張り替えた。
その日は、それだけで心がなごんだ。

<私の想像を加えた歌の意味>
思い立って部屋の障子を張り替えた。
その日はそれで心がなごんだ。
私の日々は悲しく苦しい。
あれは、ある日のことだった。
悲しくも苦しくもないある日のことだった。

<歌の感想>
 この短歌を一首だけ読んだなら、日常に心の平安を得た作者を思い浮かべる。しかし、『一握の砂』の中で読むと、そうは受け取れない。「ある日のこと」とわざわざ示し、「その日は」とさらに強めていることからも、「ある日」が作者にとっては、稀な日であったと受け取れる。
 日々の生活が息苦しくなっている作者を感じる。