我と共に
栗毛の仔馬(こうま)走らせし
母の無き子の盗癖(ぬすみぐせ)かな

<短歌に思うこと>
 少年のころの作者ともう一人の少年が、一頭の栗毛の仔馬に代わる代わる乗り、草原を走らせる。少年二人も仔馬もこの上なく愉快だ。
 故郷での作者の美しい思いでの一場面だ。
 そこで、作品として完結してもよかったのでないかと思う。だが、啄木の場合は、そうはいかない。共に遊んだその子の事情やその子の思いを見過ごすことができない。
 その子「母の無き子」は、素直で活発な子だ。しかし、その子には親がいなく、十分に面倒を見てくれる人もいない。その子は食べるものにさえ不自由することがある。だから、他人の物を盗んででも食べたり着たりしなければならない。そんな生活を続けるうちに、その子には盗癖がついてしまった。
 素直で活発な子に、悪癖がついてしまったのは、どうしてか。作者の思いは、そこまで至っているように感じる。