万葉集のかたわらにキーボード

記事は、原文に忠実な現代語訳や学問的な解釈ではありません。 私なりにとらえた歌の意味や、歌から思い浮かぶことを書いています。

2019年04月

西行 山家集 上巻 春 48

玉章の はしがきかとも 見ゆるかな 飛び遅れつつ 帰る雁がね 
たまづさの はしがきかとも みゆるかな とびおくれつつ かえるかりがね 

<私が考えた歌の意味>
手紙の余白の添え書きにも見える。
整然と列をなす雁の群れに、遅れながら飛んでいく雁の姿が。

<私の想像を加えた歌の意味>
きれいに隊列を組んで雁が北へ帰っていく。
おや、後ろから行くあの一羽は列から遅れたのか。
一羽だけでなく、また一羽が遅れながらも群れの後を飛んでいる。
だんだんに離れていく隊列と、それに遅れて飛ぶ数羽の雁の姿。
その遅れた雁は、まるで、手紙の余白に書かれた添え書きのようだ。
春の空に、手紙の本文とその添え書きが遠ざかっていく。

<歌の感想>
 譬えのおもしろさと言ってしまえば、それまでであるが、単なる譬えを超えた作者の見方が伝わってくる。
 手紙の添え書きには、本文とは異なる書き手の感情が書かれている場合がある。まるでそれを思わせるように、整然とした隊列の雁だけでなく、そこに乱れや余情を生み出す数羽の遅れた雁が飛ぶ。
 風景の微かな破綻を楽しむ作者を感じる。

西行 山家集 上巻 春  47

雁がねは 帰る道にや 迷ふらん こしの中山 霞隔てて
かりがねは かえるみちにや まようらん こしのなかやま かすみへだてて

<私が考えた歌の意味>
雁の群れは、北へと戻る。
一度渡ってきた空の道だが、雁は迷っているだろう。
こしの中山が霞の中で、すっかり見えなくなっているから。

<私の想像を加えた歌の意味>
春霞に、こしの中山がすっぽりと覆われている。
これでは、北国に帰る雁の群れも帰り道に迷うではないか。
空行く雁のことが心配になるほどの春霞の景色だ。

西行 山家集 上巻 春 46

霞の中の帰雁
なにとなく おぼつかなきは 天の原 霞に消えて 帰る雁がね
なにとなく おぼつかなきは あまのはら かすみにきえて かえるかりがね

<私が考えた歌の意味>
なんということもないのだが、もの足りないような心残りなような気持になる。
遠くの空の霞に消えていく雁を眺めていると。
雁はもう帰ってしまうのだ。

<歌の感想>
 「おぼつかなき」としているのは、雁がいなくなることでも、雁の気持でもないのであろう。「霞に消えて帰る雁がね」の様子から感じられる春の風情そのものが、「おぼつかなし」の対象だと感じる。

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