万葉集のかたわらにキーボード

記事は、原文に忠実な現代語訳や学問的な解釈ではありません。 私なりにとらえた歌の意味や、歌から思い浮かぶことを書いています。

2018年08月

万葉集 巻三 245 長田王(ながたのおおきみ)が筑紫に遣わされ、水島に渡る時の歌二首

聞きしごと まことに貴く 奇しくも 神さびをるか これの水島
ききしごと まことにとうとく くすしくも かんさびおるか これのみずしま

<私の想像を加えた歌の意味>
水島が見えてきた。
なんと神々しい所だ。
今までいろいろと聞いていた通りに貴い雰囲気が漂っている。

<歌の感想>
 作者の感動は強くないような気がする。水島という地を褒め上げなければならないような事情の下に詠んだ短歌と感じる。

朝日新聞夕刊2018/7/11 あるきだす言葉たち 7・11アゲイン 熊谷 純(くまがい じゅん)

たぶん来る明日の方へゆつくりとペダルの上の雨を踏み込む

 将来への展望の感じられない現状を描いているのに、この一連の短歌は前に進もうとする気持ちを感じる。それを、この作からはっきりと感じる。
 明日が来ることさえ、確信がもてない。だけど、「たぶん来る」とどこかで楽観している。そして、雨と自転車と自分の行為を、情感として表現している。この抒情が作者の強みなのだと思う。


そのむかし秀才の名の高かりし
友牢にあり
秋のかぜ吹く

<私の想像を加えた歌の意味>
秋の風を感じる。
空模様も風景も秋の気配だ。
ふと、友のことを思う。
牢に入れられたという友のことを。
なんの罪で牢に入れられたのか詳しくはしらない。
しかし、人を傷つけたり物を盗んだりする友ではなかった。
それどころか、むかしは秀才で有名な友であった。
きっと、罪を犯さざるえない事情があったに違いない。
心が寒くなるような秋風がふく。


夢さめてふつと悲しむ
わが眠り
昔のごとく安からぬかな

<私が考えた歌の意味>
深夜ふっと目が覚めた。
目が冴えて寝付けなくなった。
思うのは悲しいことばかり。
私の眠りは昔は安らかだった。
今は、熟睡できない夜が多くなってしまった。

<歌の感想>
 ただ睡眠のことを表現しているのではあるまい。
 今よりももっと若い頃、故郷にいた頃、その頃も平穏な日々を送っていたのではない。だが、今の暮らしに比べると、昔の方がずっと安らかだったと懐かしんでいる気持ちが伝わってくる。

朝日新聞夕刊2018/7/11 あるきだす言葉たち 7・11アゲイン 熊谷 純(くまがい じゅん)

ひとつづつ昔の傷をうづかせて入社と退社をあまた記せり

 私は、この短歌で表現されていることが気になっていた。どうして最近はこうなったんだ!と思う。
 それは、就職、就労、つまりは働き方が非常に不安定なものになってしまったことだ。
 この短歌は、そのただなかに生きている人の思いが描かれている。
 
 雇用する側にとっても、雇用される側にとっても、労働力の需要と供給に応じるには、現代の就労形態が都合がよいのであろう。今は、過去の安定感のある終身雇用の形態はまったくあわないのだ。 
 そうなると、一人の人が入社と退社を繰り返すのは当たり前のことになる。
 「入社と退社をあまた」して、より高い収入を得て労働意欲を高める人もいるであろう。
 現代の労働環境が、作者のように「昔の傷をうづかせる」ことにつながる人もいるであろう。
 職を変えることによって、「傷」を増やしていく作者のような人が増えている、と私は感じる。終身雇用でなくても、安定感のある働き方はあるはずだと思いたいのだが‥‥

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