朝日新聞夕刊2017/3/22 あるきだす言葉たち 春の棘 松岡 秀明(まつおか ひであき)

少しだけ心を病んだ少年に雲の名前をふたつ教わる

カステラのザラメの粒が外来の空いた時間に読点をうつ

<歌の感想>
 二首ともに日常の出来事が切り取られている。特に「カステラの」の一首は、似たような時間は他の日にもあるのだろう。それでいながら、口の中に残る「ザラメの粒」を感じながら、気持ちを切り換えて次の患者に向かうこの日の瞬間は、この時だけのものと感じる。
 「少しだけ」の歌からは、「少年」の話を丁寧に聴いている様子が伝わってくる。医師は患者の病を診るのだが、同時に、患者その人をも見なければならないのだろう。作者は、それを行っていると感じる。
 日常を表現した作に、これだけ美しさがあるということから、日々を見つめる眼の確かさを感じる。