万葉集 巻二 
93 内大臣藤原卿(鎌足)が鏡王女に求婚した時、鏡王女が内大臣に贈った歌一首

玉くしげ 覆ふをやすみ 明けていなば 君が名はあれど わが名し惜しも
たまくしげ おおうをやすみ あけていなば きみがなはあれど わがなしおしも

94 内大臣藤原卿が鏡王女に返した歌一首
玉くしげ みもろの山の さな葛 さ寝ずは遂に ありかつましじ
たまくしげ みもろのやまの さなかづら さねずはついに ありかつましじ

<私が考えた歌の意味>
93
あなたは、お泊りになったことを隠すのはたやすいと、夜が明けてから帰ろうとなさっています。
あなたの名がそれで傷つくことはないでしょうが、私は自分の名が惜しいのです。

94
あなたのところに来ているのに、寝ずに帰ってしまうことなどありえません。
このまま、結ばれないのなら、生きていることもできないでしょう。

<私の想像を加えた歌の意味>
93
あなたは、二人の関係を隠しておくのはたやすいと、夜が明けるまで帰らないおつもりですね。
あなたは、それでもよいかもしれませんが、私にとってはそうはいきません。
私の立場も考えて、いらしてもよいのですから、もっと慎重に振舞ってください。

94
あなたと一緒の夜を過ごすことができないなど思いもよりません。
周りの人々の評判など、気にしてはいられません。
あなたは、自分の立場を気にかけていますが、私は、あなたなしでは生きていることさえできないほどです。

<歌の感想>
 鏡王女の歌93には、自分の立場を気にかけてほしい、と相手をたしなめる気持ちを感じる。藤原卿の歌94からは、強い求婚の思いと同時に、この求婚が周囲に知れてもそんなことは心配しなくともよい、という自信が感じられる。