万葉集 巻一 32 高市古人(高市連黒人)

古の 人に我あれや 楽浪の 古き京を 見れば悲しき
いにしえの ひとにわれあれや ささなみの ふるきみやこを みればかなしき 

<私の想像を加えた歌の意味>
我は、いにしえの人なのか。
今のこの景色を眺めると、無性に悲しくなる。
この草原には、見上げるような宮殿が建っていた。
この荒れた道では、天皇に仕える人とその供の者たちが大勢行き来していた。
今は、ただ廃れていく都の跡しかない。

 旧都を詠んだ短歌としては、単純な構成だと思う。
 「古の人に我あれや」は、なんのことだろう、と思わせられる。口訳萬葉集 折口信夫 では次のように訳されている。「ひょっとすれば、自分が、昔近江の朝廷に仕へてをつた人なのであらうか、なんだか、昔の人の様な気がする。」この訳通りだと思う。作者のこの感じ方がおもしろい。
 そして、結句の「見れば悲しき」は、あまりにもストレートな表現だ。都跡の様子や廃墟に伴う情感は、描かれていない。
 この飾らない表現が特徴だと思う。時間の経過を、感じたままに詠んでいると感じる。