石川啄木『一握の砂』「我を愛する歌」 より

心より今日は逃げ去れり
病ある獣のごとき
不平逃げ去れり

<私が考えた歌の意味>
心の中から今日は逃げ去った。
病に罹った獣のような不平が逃げ去った。

<私の想像を加えた歌の意味>
今日の精神状態は平生と違う。
いつもいつも私の心にある不平、まるで病気の獣のような不平が消えている。
怯え、疑い、逃げ惑う病気の獣のような不平が、私の心から逃げ去った。
不平が逃げ去った今の気持ちは、晴れやかで穏やかだ。

<歌の感想>
 どうしてこんなに穏やかな気持ちになったかを、啄木は表現していない。代わりに、「逃げ去れり」を繰り返している。こういう平穏な精神状態が、稀なことであり、何か具体的な理由があるからではないことを、啄木は知っていると感じる。
 普通の人なら、不安定で不安な気持ちになるのは滅多にないことだ。啄木の場合は、平生が不安定で不安な気分であり、稀に安定した気持ちになるのであろう。