山家集 上巻 春 36 7016

心せん しづが垣根の 梅はあやな 由なくすぐる 人とどめけり
こころせん しずがかきねの うめはあやな よしなくすぐる ひととどめけり

<口語訳>
気にしておこう。家の粗末な垣根の梅の花は不思議だ。ただ通りかかっただけの人を立ち止まらせる。

<意訳>
我が家に来たわけでもない人が、垣根のそばで立ち止まっている。
そうか、梅の花の香に誘われて、立ち寄ってくれたのだ。
忘れないようにしておこう。
我が家の粗末な垣根の梅に誘われて、来てくれる人もいるということを。

 
 通りがかっただけの人が、家の梅を眺めて立ち止まった。季節の花には、縁もゆかりもない人をも引きつける魅力があるのだ。西行は、そんな状況を楽しんでいる。これは、現代でも変わらぬ気持ちだろう。