山家集 上巻 春 32 7012

おひかはる 春の若草 まちわびて 原の枯野に 雉子なくなり
おいかわる はるのわかくさ まちわびて はらのかれのに きぎすなくなり

<口語訳>
若菜が芽吹くのを待ちきれなくて、野原の枯野で雉が鳴いている。

<意訳>
春がきたが、若菜の芽はまだ萌えださず、野原は枯れている。
若菜の芽はまだでないのに、待ちかねて雉が来ている。
春の枯野に、雉が盛んに鳴いている。


 原は、春の枯野だ。そこは、間もなく若菜の芽で緑になる。雉の鳴き声が聞こえる。姿は見えないが、雉は何をしているのだろう。
 作者の関心は、季節の到来に注がれつづけ、あらゆることが季節の変化と結びつけられている。和歌の題材として四季の変化よりも重要なものがあるものか、という意識を感じる。
 季節の変化だけを題材にした作を続けて読むと、だんだんに飽きてくる。だが、人と時代を問わず、季節の変化以上に人間にとって大切なもの、心を豊かにしてくれるものがあるか、と問われると、答えは簡単ではない。